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雑記2022.03.31

博士課程を退学しました(7年ぶり2回目)

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今年度で博士課程を退学した。7年ぶり2回目だ。

今回は単位取得(満期)退学という形になるが、7年前は単なる中途退学。「失踪」という言葉の方が近いかもしれない。博士課程に進学した人のうち数パーセントは失踪するらしい。本当かどうか分からないが、所詮ただの数字に過ぎない。数字の上からは分からないそのときの話をしよう。



就職活動、進学、そして退学

修士課程の僕は就職活動を迷っていた。研究という営み自体は好きだったが、正直自分にはそれで食べていけるほどの能力があるとは思えなかった。僕の研究分野は理論研究に近い。つまり今すぐに役立つようなものではない。10年後、いや100年後に役に立つかもしれないし、何年経っても役に立たないただのお遊びかもしれない。しかし流行に左右されない本質的な問いに挑んでいる。そう思っていた。


結局、中途半端な気持ちで就職活動を始めた。純粋な研究にこそが価値のあるものだと思っていた僕には辛かった。ただ就職するためだけに、思ってもいない志望動機を無理やり口にすることに抵抗があった。思い返してみると受験勉強もそうだった。何のために勉強するのか、何のために大学に行くのかよく分からなかった。あるときテレビで大学のセンセイが真剣に話している姿を見て、なぜかカッコいいと思った。研究とか学問とか当時はよくわからなかったが、勉強の先にこんな世界が広がっているなら意味はあるのかもしれない。そう思えたから受験勉強を乗り越えられた。しかし就職活動はどうだろう。生きるために働くのであれば、生きた先に何がある?研究に立ち向かう真っ直ぐな気持ちはひどく捻じ曲がっていた。


そんな態度のやつが受かるはずもなく、就職先は決まらなかった。元々やりたかったのはこんなことじゃない。経済的な利益を生み出して何になる。本当に価値のあることをやるべきだ。自分に言い聞かせるように博士課程に進学することにした。博士課程に進学すると周りは就職し、一気に環境は変わった。働いてお金を稼いでいる同期を尻目に孤独に研究に向き合うことは、想像以上に僕にダメージを与えた。逃げで進学したことに気づかないふりをした。自分の研究はすぐに役に立つようなものじゃない。もっと本質的で何年経っても変わらない真理を追求しているんだ。何度もそう言い聞かせる。こんなところで立ち止まっていてはいけない。もっと遠くを見るんだ。もっと、もっと……。


限界だった。自分がやっていることの価値が分からなくなっていた。そして博士課程に進学してからわずか3ヶ月。全てを放り出して逃げ出した。僕は研究室に行かなくなったのだ。そこからのことはあまり覚えていない。家に引きこもりずっとラジオを聴いていた。奨学金として借りたお金で飯を食い、それを糞に変えるだけの日々が続いた。未来に何一つ希望が見出だせない。これからどうなってしまうのだろう。奨学金は本人が死亡した場合、返還免除されるらしい。そんなことを調べながら深い眠りについた。


……。


…………。


………………。



いつものように夕方16時に目が覚める。

近くの庭園にフラッと出かけてみる。池をぼんやり眺めながら座っていると、一人のおじいさんに話しかけられた。「ここからの眺めが素晴らしいんだよ。ガハハ!」豪快な笑い声に気圧されながら適当に相槌を打つ。言われるまで気づかなかった。確かに良い眺めだ。目に入っていたはずなのに見えていなかった。僕は今まで何を見ていたのだろう。空も木々も水も全てが美しいような気がした。くだらない世の中だと思っていた。しかし世界は色に満ち溢れている。憎しみや悲しみさえも世界を彩る一要素のように思えた。


もう一度立ち上がろう。今から何ができるか分からない。とにかく借りたものは返さないといけない。そんな当たり前のことを当たり前にやろう。それだけでいい気がした。そして僕はほとんど行っていなかった大学を辞めた。就職先も何も決まっていない。僕は何者でもなくなった。残ったのは学部時代から借りていた奨学金という名の借金がウン百万。それでも不思議と絶望感はなかった。さあこれから何をしよう。大学を辞めたときの僕の気持ちは驚くほど晴れ晴れとしていたのだった。



今日までそして明日から

それから今日まで僕はなんとかやっている。いろんな縁があってここまでやってこれた。奨学金も一気に返せるくらい貯金もできるようになった。そして今なら純粋な気持ちで研究に向き合えるかもしれない。そう思って3年前に社会人博士として再入学した。気の赴くままに研究を進めているので正直大した成果は出ていない。それはそれでいいのだと思える。将来のことも考えるようになってきた。ズルズルと学費を払い続けるのももったいないので、今年度限りで単位取得(満期)退学という形をとることにした。退学後3年以内であれば課程内で博士号が取れるので、まだ諦めたわけではないけど。


研究室から逃げ出したとき、未来には絶望しかなかったあのときの自分。あのときは想像できなかった未来に今立っている。見えていなくても確かにそこに光はある。生きていればなんとかなるなんてそんな当たり前のことを今更言いたいわけではない。そもそも当たり前のことなんてない。起きて飯食って糞して寝る。それだけで十分すごいことをやっている。クソッタレの自分を褒めてやれ。


そして明日からもこうして生きていくのだろう。それではお聴きください。吉田拓郎で『今日までそして明日から』。





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