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高校受験の思い出 - 総合選抜という高校ガチャについて -
大学入学と同時に東京に出てきて、いろんなズレを感じることが多かった。
中でも大きいのが高校受験の話である。何かを伝えたいわけでも訴えたいわけでもないが、ふとそんな話を書いてみようと思った。
総合選抜とは
皆さんは総合選抜という制度について知っているだろうか。たぶんある特定の世代、ごく僅かの地域に住んでいた人以外は知らない。
Wikipediaによるとこう書いてある。
主に日本の中等教育レベルの公立学校で実施されていた入学試験方式の一つで、学校間格差の解消を目的として、居住地や学力などによって合格者を学区内の各校に平均的に振り分ける制度。
簡単に言ってしまうと、入試に合格しても行きたい高校に行けるとは限らない、ということ。つまり高校ガチャである。
山梨県では2007年までこの総合選抜が行われていた。私は2004年高校入学なので、この制度の影響を受けまくっている。
私の住んでいた田富町(現中央市)では、公立の普通科高校に進学するには隣町の市川高校か甲府総合選抜(甲府総選)しかなかった。
偏差値という概念は知らなかった。平均より少し上くらいの子は甲府総選、少し下くらいの子は市川高校を受ける。そんな感じだったと記憶している。
甲府総選には4つの高校があった。
甲府昭和高校、甲府南高校、甲府東高校、甲府第一高校。
どの高校の入試を受けるか、ではなく甲府総選の入試を受ける。そして合格者は4つの高校から"何かしらの理由"でどの高校に行くかが決まる。一応希望を出すことはできる。一応。
しかし、私の住む町から受けるとほとんどが甲府昭和高校に行くことになる。
理由は「近いから」。
入試の得点は関係ない。むしろ成績が良い方が希望が通らないかもしれない。学力を平均的に振り分けることが目的なのだから。ひどい話である。
誤解のないように言っておくと、私はこの制度を恨んでいるわけではない。
何の疑問もなかった。それが当たり前だったし、そういうものだと思っていた。
入学式当日の自己紹介で、本当は違う高校に行きたかったと嘆いた同級生のことを今でも覚えている。
環境が違っていたら……
私は特に行きたい高校があったわけではない。ただ、同じ中学の人たちのほとんどが行くことになる甲府昭和高校には行きたくなかった。なんとなくそんなことを思っていた。
総選を回避するために、推薦入試を選んだ。推薦入試なら飛ばされることがなかったからである。たまたま選んだ甲府東高校は進学に力を入れていた。
そして東大へ行きたいと思った。
そう思ったときに周りの人たちがサポートしてくれた。サポートしてくれる環境があった。
私は運が良かった。
結局東大には受からなかったが、早稲田大学に行くことになった。自分としては十分な結果だった。
しかし、環境が違っていたら……、そんなことを思わないこともない。
私の通っていた甲府東高校普通科からは3年前に1人東大へ行った人がいるらしい。そんな環境で休み時間に1人で東大の入試問題を解いていた。
総選がなければ高校間の格差は広がるだろう。それは同時に、同程度の学力の人が集まることを意味する。
もっと刺激的な環境があり得たかもしれない。そんなことを思う。
事実、大学は刺激的な出会いばかりだった。そのときの出会いで今があると言っても過言ではない。
何かが違っていたら地元の大学に進学して、地元で就職していたかもしれない。もちろん、それはそれで良かったのかもしれないが。
選択できるということ
「井の中の蛙大海を知らず」という言葉がある。
大学進学と同時に東京に来て私の世界は広がった。
大海を知ることができて本当に良かったと思う。
ただし、この言葉には続きがあるという。
「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」
井の中の蛙は必ずしも不幸ではない。
危険な大海に出ずとも、井の中で豊かに暮らすこともきっとできる。
もう一度言うが、総合選抜という制度を恨んでいるわけではない。たかが高校受験で人生にどれだけの影響があったのかは分からないし、そのお陰で良かったことも沢山あるはずだ。ただ、この話をすると周りに驚かれる。自分とは全く違う受験環境があるのだと知る。
大事なのは選択だと思う。
大海を知って、井の中に戻っても良いと思う。
私は大海を知って、もっとこの世界のことを知りたくなった。それは危険な世界に一歩踏み出すことなのかもしれない。それでも知りたいという欲求は誰にも止められない。
一番悲しいのは、選択できないこと、選択できることを知らないことではないだろうか。
このようなことが世の中には沢山潜んでいるのだろう。
壁というほど大層なものではない。小石程度の見えない障壁。
少なくとも自分には高校受験や大学受験の選択肢があった。選択肢を見せてくれたし、与えてくれた。
そこに大きな壁はなかった。
地方格差とかそんな大きな話でもないと思う。取るに足らない話だが、なんとなく書き記しておきたいと思った。
こんな小石があったことを。